ソーシャルグッドな髪の話!音を髪から伝える?Ontenna(髪から音を伝える技術)の最新情報

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その装着の様子は、ヘアピンを着けているかのようにも見えるOntenna(オンテナ)。
24時間テレビや「うちで踊ろう」、その他さまざまなイベントで話題となった白くて丸いユーザーインターフェースは、耳の聞こえない人の生活にどのような影響をもたらすのでしょうか。 また、ITと福祉とが結びつくことでどういった価値が見いだされるのでしょうか。
今回は、『音をからだで感じるユーザーインターフェース「Ontenna(オンテナ)」』について、製品の特徴や近年の取り組みをご紹介します。

Ontennaとは

Ontennaは髪の毛や耳、衣服などに装着する、一見するとアクセサリーやイヤホンのようにも見える手のひらサイズのユーザーインターフェースです。
「音とアンテナ」が名称の由来で、振動を感じやすい髪に装着したり、人工内耳に干渉させたくない場合は衣服に着けたりなど自由に場所を変えられるよう工夫がされています。
Ontennaの主な機能は「音の強弱を振動や光に変換することで、耳の聞こえない人へリズムや音の特徴を伝える」というものです。 タイムラグがほとんど無くリアルタイムでの伝達が可能なことから、ダンスや演奏のシーンなどで多く活用されています。

福祉でのテクノロジーとして革新をもたらすOntenna

従来、振動や光で音を伝達するデバイスはあったものの、変換可能な音は限られたものばかりでした。 例えば時計のアラームが振動で伝わるものなど、「耳の聞こえない人が音を楽しむ」といった用途ではない製品が中心であったといえます。
2019年に製品化されたOntennaは変換する音を限定せずあらゆる音を伝達することが可能なため、ろう学校での導入やイベントでの活用など、幅広く使われているのが特徴です。

Ontennaの開発者は富士通の本多達也氏

Ontennaは「世界中のろう者へ届けたい」というコンセプトのもと、富士通の本多達也氏が中心となって開発されました。 同氏の耳が聞こえない人との縁や出来事がきっかけとなり開発に至ったOntennaですが、ひいては健聴者も使いたくなるような製品を目指して作られたそうです。
本多達也氏は「Innovators Under 35 Japan 2020」において35歳未満のイノベーターの一人としても選出されており、Ontennaの「耳が聞こえない人と健聴者が一緒に同じ音を楽しむ」という視点からしても、たしかに革新的なユーザーインターフェースだと考えられるでしょう。

Ontennaの機能

Ontennaでは256段階の振動・光の強弱によって、60~90dBの音の特徴を伝えることができます。 リアルタイムでさまざまなパターンに変換され、ユーザーは音のリズムやパターン、大きさなどを知覚することができます。

シンプルモード

シンプルモードは、Ontenna本体の内蔵マイクが音を拾い、それが振動や光に変換されることでユーザーが音の大きさやリズムを感じられるモードです。 鳥の鳴き声や自然音をはじめ、自分で吹いて演奏するリコーダーなどの音も感知することができます。

スマートモード

スマートモードは別途のコントローラーを用い、音を感知させるモードです。 コントローラーとの接続により複数のOntennaと連携できるため、同時に複数人へ合図を伝達することが可能となっています。
例えば、中心の丸いボタンを大きくタップすると強く、小さくタップすると弱い光と振動に変換されて伝達されます。 さらに、コントローラーにスマホを接続して音楽を感じることや、太鼓などの楽器・マイクに接続して複数人で同じ音を知覚することも可能です。

音ズーム機能

音ズーム機能を活用すれば、Ontennaを使用する場所の環境に合わせて拾うデシベルの範囲を調節することもできます。
例えばイベント会場や電車内など人が集まる場所(約80dB~)では「音ズームOFF」、室内など静かな場所(約60dB~)では「音ズームON」に設定すると、適切な範囲で感知することが可能です。

Ontennaの取り組み

前述のとおり、Ontennaはその汎用性からさまざまなシーンで活用しており、独自の取り組みも行っています。 ここでは、具体的な例をご紹介します。

ろう学校の授業での活用

教育現場での活用拡大を目的とし、2019年6月よりろう学校へのOntenna体験版の提供が無償で開始されました。
ろう学校の生徒は、自身が発する声の音量がわからないために発話練習の声の強弱を調整することが困難であったり、音楽の授業では教員のサポートなしにはリズムが全くわからなかったりといった課題に直面していました。
聴覚に障がいのある子どもの通う東京都立葛飾ろう学校では、ICT機器などを用いた生徒それぞれの特性や課題に適した教育への取り組みの一環として、Ontennaを音楽の授業において導入しています。
「スマートモード」を活用することで教員がコントローラーを操作すれば複数の生徒が同時に振動を感じることができ、従来難しいとされていた「合奏」が行いやすくなりました。
Ontennaのろう学校での活用は、生徒が新しい経験をし音を共有する楽しみを知るだけでなく、教員の負担軽減も期待できる取り組みだと考えられるでしょう。

プログラミング教育環境の無償公開

Ontennaは2020年12月より、全国の学校向けにプログラミング教育環境を無償公開しています。 2020年度より小学校でのプログラミング教育が開始されたこともあり、ろう学校だけでなく普通学校への展開も考えられた取り組みです。
生徒がOntennaを通してプログラミングを学ぶ機会になると共に、子どもたちの「障がい」について知るきっかけにもなるため、ダイバーシティ教育も視野に入れた取り組みだといえるでしょう。
この無償公開では、「Scratch」というビジュアルプログラミングランゲージツールによって生徒が振動の強弱や光の色をカスタマイズすることが可能です。
例えば「大きな音の時はOntennaは青く光る」といった設定ができ、作成されたプログラムは充電スタンドを通してPCからOntennaへ取り込むことが可能です。 さらにこのプログラミング機能をもとに、東京都立葛飾ろう学校と富士通は指導教材を作成しています。

アートイベント

2021年瀬戸内海の豊島にて、テクノロジー×アートのイベントが開催されました。
この香川県立ろう学校・豊島中学校の生徒が参加した「Ontenna x 豊島 Art Workshop」は、福武財団と本多達也氏との共同プロジェクトです。
イベント内では「世界中から集められた7万もの心臓音に反応して光が点滅する」というインスタレーション作品や、自然のなかを歩き風や虫の鳴き声など数々の音と触れ合うといったレクリエーションを通して、生徒たちの交流が深まりました。
Ontennaというテクノロジーを通してアートや音を体感することで、「障がいの壁を越えて個々が個々と向き合う」といった経験を得る機会となったようです。 子どもたちは耳が聞こえない人、あるいは健聴者であることに関係なくひとりひとりの感じ方の違いに気付き、多様性にも触れる場となったと考えられます。

まとめ

今回はOntennaでできることや、関連する取り組みなどについてご紹介しました。
プログラミング教育やイベントなどの活用シーンからしても「耳が聞こえない人だけでなく健聴者も一緒に音を楽しむ」という点に重きが置かれており、Ontennaはダイバーシティへの大きな足がかりとなるのではないかと考えられます。
髪に着ける小さなユーザーインターフェースが、単なる耳が聞こえない人のための便利な機器ではなく、さまざまな人と人とをつなぐパイプとなっていくのではないでしょうか。